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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)4616号 判決

兵庫県加古川市〈以下省略〉

原告

X1

同所同番地

原告

X2

同所同番地

原告

X3

右三名訴訟代理人弁護士

木村祐司郎

松重君子

中村良三

住居所不明

最後の住所

東京都杉並区〈以下省略〉

被告

主文

一  被告は原告X1に対し、九四万〇三七五円及び内八五〇万〇三七五円に対する昭和五九年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告X2に対し、五六三万八五〇〇円及び内五一二万八五〇〇円に対する昭和五九年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告X3に対し、三五五万九五〇〇円及び内三二五万九五〇〇円に対する昭和五九年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第一項ないし第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一原告らの求めた裁判

主文第一項ないし第三項同旨の判決及び第二項ないし第三項について仮執行の宣言

第二原告らの請求原因

一  当事者

1  原告X1(昭和一九年○月○日生、以下「原告X1」という。)と原告X2(昭和一二年○月○日生、以下「原告X2」という。)とは夫婦、原告X3(明治四〇年○月○日生、以下「原告X3」という。)は原告年の母である。

2  被告は、貴金属の輸出入及び販売等を目的とすると称する豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)の代表取締役である。

二  豊田商事の違法な商法

1  純金ファミリー契約の仕組み

豊田商事が顧客らに勧める純金ファミリー契約とは、豊田商事が顧客に金地金を売渡したうえでこれを一定期間賃借すると称して、実際には顧客に金地金を交付せず、右賃貸借の期間が満了しても、円地金を顧客に交付(返還)する意思がないか、少なくとも契約当初は顧客の注文に見合う金地金は購入せず、顧客に償還する時点で初めて金地金を購入していたにもかかわらず、契約期間終了時には同種、同名柄、同数量の純金を返還する旨記載した純金ファミリー契約証券なる書面を顧客に交付して、あたかも豊田商事が顧客の注文に見合う金地金を保有して、顧客から金地金を賃借しているかの如き外形を作り出し、真実金地金を買い受けてこれを豊田商事に賃貸するものと誤信している顧客から、金地金代金及び売買手数料名下に金員を騙取する詐欺的取引である。

2  原告らと豊田商事との取引の経過

(一) 豊田商事は、同社の姫路支店を通じて、原告らに前記の純金ファミリー契約の勧誘をし、同契約を締結させたうえで、金地金購入代金及び手数料名下に金員を交付させたものであり、その具体的態様は別紙被害状況一覧表記載のとおりである。

(二) 豊田商事は、右の勧誘にあたり、原告らに対し、「金は必らず値上りする。銀行預金などよりはるかに有利である。」などと、虚偽もしくは著しく誇大な事実を申し向けて原告らを欺罔し、その旨誤信させて取引応諾に至らせた。

三  被告の責任

原告らと豊田商事の本件取引は、前記のとおり、その取引の仕組自体及び勧誘行為のいずれも詐欺によるもので違務法である。

被告は、豊田商事の代表取締役として、右行為に共同加功したものとして、民法七〇九条に基づき、本件取引によって原告らが被った各損害を賠償すべき義務がある。

四  原告らの損害

1  原告X1

(一) 原告X1は、豊田商事に金地金代金及び手数料名下に八五万〇四七五円を支払い、右相当額の損害を被った。

(二) 原告X1は、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、報酬として一〇万円を支払う旨約定し、同額の損害を被った。

2  原告X2

原告X2は、豊田商事に円地金代金及び手数料名下に五一二万八五〇〇円を支払い、右相当額の損害を被った。

(二) 原告X2は、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、報酬として五〇万円を支払う旨約定し、同額の損害を被った。

3  原告X3

(一) 原告X3は、豊田商事に金地円代金及び手数料名下に三二五万九五〇〇円を支払い、右相当額の損害を被った。

(二) 原告X3は、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、報酬として三〇万円を支払う旨約定し、同額の損害を被った。

五  結論

よって、原告らは、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、以下のとおりの金員の支払を求める。

1  原告X1に対し、損害金九四万〇三七五円及び内弁護士費用を除く残額八四万〇三七五円に対する不法行為の後の日である昭和五九年一〇月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

2  原告X2に対し、損害金五六二万八五〇〇円及び内弁護士費用を除く残額五一二万八五〇〇円に対する不法行為の後の日である昭和五九年一二月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

3  原告X3に対し、損害金三五五万九五〇〇円及び内弁護士費用を除く残額三二五万九五〇〇円に対する不法行為の後の日である昭和五九年一〇月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

第三被告について

被告は公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第四原告らの提出、援用した証拠

本件記録中の証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  当事者

原告X2本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証ないし第五号証、原告X2本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、以下の認定に反する証拠はない。

(一)  原告X1(昭和一九年○月○日生)と原告X2(昭和一二年○月○日生)とは夫婦、原告X3(明治四〇年○月○日生)は原告X2の母である。

(二)  被告は、貴金属の輸出入及び販売等を目的とすると称する豊田商事の代表取締役である。

二  豊田商事の違法な商法

前掲各証拠に弁論の全趣旨により成立を認める甲第一号証を総合すると以下の事実を認めることができ、以下の認定を覆えすに足りる証拠はない。

(一)  純金ファミリー契約の仕組み

豊田商事が顧客らに勧める純金ファミリー契約とは、豊田商事が顧客に金地金を売渡したうえでこれを一定期間賃借すると称しているが、実際には契約当初は顧客の注文に見合う金地金は購入せず、顧客に償還する時点で初めて金地金を購入していたにもかかわらず、契約期間終了時には同種、同名柄、同数量の純金を返還する旨記載した純金ファミリー契約証券なる書面を顧客に交付して、あたかも豊田商事が顧客の注文に見合う金地金を保有して、顧客から金地金を賃借しているかの如き含形を作り出し、真実円地金を買い受けてこれを豊田商事に賃貸するものと誤信している顧客から、金地金代金及び売買手数料名下に金員の交付を受ける取引である。

(二)  原告らと豊田商事との取引の経過

(1)  豊田商事は、同社の姫路支店を通じて、原告らに前記の純金ファミリー契約の勧誘をし、同契約を締結させたうえで、金地金購入代金及び手数料名下に金員を交付させたものであり、その具体的態様は別紙被害状況一覧表記載のとおりである。

(2)  豊田商事姫路支店の従業員は、右の勧誘にあたり、金地金等の知識を全く有しない原告らに対し、「金は必らず値上りする。銀行預金などよりはるかに有利である。」などと、著しく誇大な事実を申し向けて原告らを欺罔し、その旨誤信させて取引応諾に至らせた。

三  被告の責任

前記のとおり、豊田商事の純金ファミリー契約なる商法は、顧客に金の現物を販売し、それをさらに顧客が豊田商事に賃貸するという形式をとってはいるものの、実際には右契約の時点では、豊田商事は金の現物を保有しておらず、顧客に償還する時点で初めて金地金を購入していたのであるから、その取引の仕組自体に詐欺的要素を含む上、豊田商事の従業員らは、およそ金地金等の取引について何ら知識を有しない原告らに対し、本件取引について十分な説明を行うことなく、金は必らず値上りするもので、銀行預金などよりはるかに有利であると告げ、本件取引が安全で確実に利益を得られるかの如く誤信させ、本件取引を行なったのであり、到底社会的に許容されない違法なものというべきである。

そして、前記甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、右の行為はいわば豊田商事の営業方針として役員や従業員等が会社ぐるみでこれを行ってきたもので、直接業務に関与しない役員も右取引の態様や発生する結果については認識していたものというべきである。

そうすると、豊田商事の代表取締役である被告は、不法行為者として原告らが被った損害を賠償すべき義務を負うものである。

四  原告らの損害

(一)  原告X1について

(1)  前記認定事実によれば、原告X1は豊田商事に金地金代金及び手数料名下に合計八四万〇三七五円を支払ったのであるから、右同額の損害を被ったものというべきである。

(2)  原告X2本人尋問の結果によれば、原告X1は、本訴提起に先立ち、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、報酬として一〇万円を支払うことを約束したことが認められる。そして、被告の不法行為の態様、本件訴訟の経緯その他本件にあらわれた諸事情を斟酌すると、弁護士費用としては一〇万円が被告の不法行為と因果関係がある損害と認めるのが相当である。

(二)  原告X2について

(1)  前記認定事実によれば、原告X2は豊田商事に金地金代金及び手数料名下に合計五一二万八五〇〇円を支払ったのであるから、右同額の損害を被ったものというべきである。

(2)  原告X2本人尋問の結果によれば、原告X2は、同様に原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、報酬として五〇万円を支払うことを約束したことが認められる。そして、被告の不法行為の態様、本件訴訟の経緯その他本件にあらわれた諸事情を斟酌すると、弁護士費用としては五〇万円が被告の不法行為と因果関係がある損害と認めるのが相当である。

(三)  原告X3について

(1)  前記認定事実によれば、原告X3は、豊田商事に金地金代金及び手数料名下に合計三二五万九五〇〇円を支払ったのであるから、右同額の損害を被ったものというべきである。

(2)  原告X2本人尋問の結果によれば、原告X3は、同様に原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、報酬として三〇万円を支払うことを約束したことを認めることができる。そして、被告の不法行為の態様、本件訴訟の経緯その他本件にあらわれた諸事情を斟酌すると、弁護士費用としては、三〇万円が被告の不法行為と因果関係がある損害と認めるのが相当である。

五  結論

よって、原告らの請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 森宏司 裁判官 神山隆一)

〈以下省略〉

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